今までになかったような新しいゲーム企画を作るのってとっても難しいですよね。
僕は大まかな企画案が決まっていればそこにアイデアを加えたり、プログラムが組めるので試作しながら企画の全体像を固めるのは得意です。
大まかな企画案のことを素案といいます。
素案を作るのは苦手なので最近は他の人に任せてしまうことが多いです。
人によって得意なフェーズが違うので、自分はどのフェーズが得意なのか認識しておくのは重要なことです。
仕事のフェーズを以下のように表現することがありますが、ゲーム開発に当てはめると以下のような感じになると思います。
0→1 | 何もないところから企画を生み出す。素案を作る |
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1→10 | 素案にアイデアを加えたり整えたりして詳細化する。試作を繰り返して企画の全体像を固める |
10→100 | ゲームを完成させる |
この中で最も希少価値の高いスキルが0→1です。正直なところ才能の世界です。
ただし0→1だけ出来てもゲームは完成しないので、1→10も10→100も重要です。
ゲーム会社はそれぞれ得意な人が集まるので、協力してゲームを完成させることができますね。
しかしながら、この記事を読んでくれている方の中には0→1が得意な人が周りにいない状況の方も多いと思います。1人で全部作る個人開発をしている方もいるでしょう。
そこで今回は、0→1が苦手な人でもできるゲーム企画のアイデア発想法をお伝えしていきます。
目次
アイデアのつくり方
先日『アイデアのつくり方(著者:ジェームス・W・ヤング)』という本を読みました。
アメリカで原著が出版されたのは80年前のことで、テレビゲーム業界が生まれる前の時代です。
著者は広告業界でこのテクニックを使って活躍してきたそうですが、僕がこれまでゲーム企画に使ってうまくいったパターンと同じでびっくりしました。
この本で解説されているポイントは大きく以下の2つです。
- アイデアとは既にある要素の新しい組み合わせである
- アイデアは5つの段階で作られる
このポイントに対して僕の経験談を混ぜながら解説します。
個人チームで先日公開してニコニコ自作ゲームフェス2020で敢闘賞を受賞した『OBLIVION – 言蝕みの誓約 -』というRPG作品があります。
投稿サイトの閉鎖でPC版は公開終了しましたが、現在はスマホにてプレイできます → iOS / Android
この作品は「レベルアップするたびに文字を忘れ、会話が読めなくなるRPG」というのが企画の素案です。
企画したのは僕ではなくプランナーなので今回の企画法を使ったというわけではありませんが、この企画法を使った場合ならどのようにこの素案にたどり着くか?という逆算の観点で解説してみます。
アイデアとは既にある要素の新しい組み合わせである
1つめのポイントは既にある要素の新しい組み合わせ以外でアイデアは生まれないということです。
完全に無の状態から有を生み出すということは存在しないというわけです。
今までにないアイデアをひらめいた!と思っても、分解してみれば既にある要素の組み合わせだった。ということはよくあります。
よく言われることなのであえてここで掘り下げることはしませんが、このポイントが次に解説する5つの段階を理解する上で重要になるので、念頭に置いておきましょう。
アイデアが作られる5つの段階
5つの段階を通して既にある要素の新しい組み合わせを見つけ、使えるアイデアに落とし込んでいきます。
- 第1段階 要素集め
- 第2段階 要素に手を加える
- 第3段階 組み合わせる
- 第4段階 アイデアの誕生
- 第5段階 アイデアを展開する
5つの段階は1つとして飛ばすことはできません。前の段階が完了するまで、先に進まないことが重要です。
今回は「今までになかった新しいRPG企画」をテーマに「レベルアップするたびに文字を忘れ、会話が読めなくなるRPG」にたどり着くまでの過程として見ていきましょう。
第1段階 要素集め
最初に組み合わせの元となる要素を集めます。
企画に失敗する原因として多いのが要素集めの不十分さです。
効果的な要素の組み合わせを見つけられずに終わることがないようにするには、要素をたくさん集めておく必要があります。
特殊要素と一般要素
要素には特殊要素と一般要素の2種類があります。
本では特殊資料と一般的資料と呼ばれていますが、ここでは資料ではなく要素と呼ぶことにします。
特殊要素
特殊要素は、これから作ろうとしている企画に関連する要素です。
今回のRPG企画はコンテストに向けたものだったので、コンテストの評価軸(綺麗なグラフィック・ストーリー・斬新さetc)や過去に受賞した作品に含まれる要素などが当てはまります。
また、今までになかった新しいRPGを作ろうとしているので過去に出ている(少なくともそれが出た当時では)新しいRPGも発想の参考になります。例えば以下のようなものです。
- 魔王が勇者を倒すRPG勇者のくせになまいきだ。
- なんでも武器になるRPGぶきあつめ
作るゲームをたくさんの人に売り込みたいと考えているなら、最近流行っているゲームや、プレイして欲しい層の中で流行っているゲーム以外の要素でも良いでしょう。
アイデアの組み合わせの元となるのは後述する一般要素がメインですが、参考になる特殊要素をどれだけ持っているかがアイデアの質に影響します。
一般要素
一般要素は常識や知識です。
- レモンは酸っぱい
- トマトは赤い
こんなことも一般要素になりますし、ゲーム企画においては何気ない面白い体験が重要になることもあります。
- プチプチを潰すと気持ちいい
- ティッシュを丸めて投げてゴミ箱に入ったら嬉しい
RPG企画では、既存のRPGに含まれている一般的な要素です。あまり一般的ではない特殊な要素であれば文字通り特殊要素に含まれます。
- レベルアップして強くなる
- ストーリーがある
- 会話を読んでゲームの進め方のヒントを得る
- コマンドを選んで戦う
- 剣や斧といった武器がある
一般要素は企画を作る時に調べるというより、人生の中で蓄積されてきたものを使うイメージです。
日頃から新しい体験をもとめて外に出てもいいし、新しいゲームを遊ぶ、映画やアニメを見る、スポーツをするといったことから蓄積されていきます。
クリエイターにとって無駄になる体験というものはないと僕は思います。全てが一般要素になります。
要素の書き出し
集めた要素は心の中にとどめておくよりも、書き出して目に見える形にするほうが後で活用しやすくなりますし、忘れていたことを思い出すこともあります。
第1段階では良いアイデアを出そうということは考えずにひたすら要素を書き出すことに集中します。
ブレインストーミング
複数人で企画をする時は、各自が持っている要素をお互いが目に見える形で共有するのにブレインストーミングが有効です。
思いついたことをどんどん書き出す方法で、1つ1つの要素の質にこだわらないのがポイントです。
その要素が良いとか悪いとかいうことはここで考えず、ひらすら情報を集めるための手段として使います。
マインドマップ
マインドマップも便利です。僕は1人でアイデア出しをする時にマインドマップを使っています。
特定の要素に関係する要素を次々と考えることができるので、要素を深堀りするのに向いています。
アプリもたくさん出ています。僕はPCとスマホの連携が取りやすくて使いやすいMindMeisterというアプリを使っています。
無料プランだとマップ数制限などがあるので他の無料アプリでも良いと思います。有名どころだとXMindがあります。
第2段階 要素に手を加える
第2段階でやることは第1段階で書き出した要素をもう一度じっくり眺めることです。
1つの要素について心の中でイメージしてみて何か思いつくことがないか。同じ言葉を別の解釈ができないか。
要素ごとに関連性がないか探ってみたりします。
ここで新しく思いついたことはまた書き出しておきます。
この段階で思いつくことは不完全で全く使えないと感じるものであることが多いですが、これが組み合わせの元となる、アイデアの種になります。ここでは気にせず書き留めておきます。
KJ法
本では第2段階について心の中で進める。とあるのですが心の中で進めようとしても何も思いつかないことが多いでしょう。
第2段階に丁度良い手法として、KJ法というものがあります。
ブレインストーミングと組み合わせると効果的です。書き出したアイデアの関連性を探してグルーピングし、ラベルをつけていきます。
こうして各要素を目に見える形で整理していくことで、心の中でも整理されていきます。
ぐちゃぐちゃになってもいい
この段階で上手にまとまることは期待しなくても大丈夫です。良いアイデアを思いつこうとする必要もありません。
各要素から何かを見つけようとして頭を働かせることに意味があり、あくまで第3段階への準備です。
これ以上何も思いつかない…疲れた。そう感じてきたら、第3段階への移行ができる状態です。
第3段階 組み合わせる
本に書かれていることは以下のような内容です。
ここまできたら考えることをやめて無意識に任せる。あとは無意識の中で要素が組み合わされ、アイデアが生まれる
衝撃的ですよね(笑)でも確かにアイデアを思いつこうと頑張っている時よりも、お風呂でふと思いつくことってあります。
無意識に任せる方法
第2段階までずっと作業を続けてきたなら、まずは手を止めて休みましょう。
無意識に任せる方法は、この企画について意識するのをやめることです。意識の外に出れば、自然と無意識に移ります。
- 音楽を聴く
- アニメを観る
- 映画を観る
- ゲームをする
このような創造性が刺激されつつ、集中することで企画から意識が逸れる活動が効果的です。
人間の脳は不思議なもので、少し前までしていた活動を無意識に続ける習性があります。
第2段階まで意識して試行錯誤していたことが、無意識レベルで、意識してやるよりも高速に行われます。
この方法はプログラミング中にバグの原因にしばらく悩んだら休憩をとると原因に気づく。といった別のことにも応用できて、僕もよく使っています。
強制発想法
残念ながら無意識に任せていても思いつかないことも多いでしょう。
無意識に任せてアイデアが生まれてくるかどうかが0→1の才能の持ち主とそうでない人の差かと思います。
だからといって諦める必要はありません。同じことを手作業で時間をかけてやる方法があります。
それが強制発想法です。代表的なものにオズボーンのチェックリストがあります。
- 転用「他に使いみちはないか?」
- 応用「他からアイデアが借りられないか?」
- 変更「変えてみたらどうか?」
- 拡大「大きくしてみたらどうか?」
- 縮小「小さくしてみたらどうか?」
- 代用「他のもので代用できないか?」
- 置換「入れ替えてみたらどうか?」
- 逆転「逆にしてみたらどうか?」
- 結合「組み合わせてみたらどうか?」
これらを集めた要素に対して順番に当てはめて新しい可能性を探っていきます。
この時、第2段階で要素が整理されていると進めやすいでしょう。
同じ結論にたどり着くにもアプローチは1つとは限りません。
例えば先述した、なんでも武器になるRPG『ぶきあつめ』は、武器という概念そのものを「拡大」して範囲を広げたと考えることもできますし、道に生えている木を見て「他に使いみちはないか?」と考えて「武器にできる」と考えたかもしれません。
第4段階 アイデアの誕生
こうして無意識の中で組み合わされるか、強制発想法を使うことで突飛なアイデアが生まれます。
今回のRPG企画ではRPGの一般要素「会話を読んでゲームの進め方のヒントを得る」にオズボーンのチェックリスト8番である逆転を当てはめ「会話を読めなかったらどうか?」というアイデアが生まれたとしましょう。
しなしながら、こうして生まれたアイデアの99%はそのまま使うことができません。会話を読めないRPGなんて遊びたくないですよね。
大切なのは、出てきた突飛なアイデアを使えないからと第4段階で捨ててしまうのではなく、第5段階へ進むことです。
第5段階 アイデアを展開する
そのままでは使えないアイデアを使えるようにするために、更に組み合わせの可能性を探っていきます。
もう一度集めた要素に目を向けたり、オズボーンのチェックリストを活用します。
2つ組み合わせたものが使えないアイデアなら、3つ組み合わせる。というスタンスです。
第5段階では「どうしたら第4段階のアイデアが使えるものになるか」という目的に当てはめて探っていくので、考えやすくはなります。
今回のRPG企画では、もう一度RPGの一般要素に着目し「レベルアップ」を組み合わせます。
結果的に「レベルアップするたびに文字を忘れる」ことで最初は全ての会話が読めるけれど、少しずつ読めなくなっていく。また、読めない文字を推測することで会話内容を把握することができるのでそれ自体がゲーム性になる。というものになりました。
実際にゲームを遊んでいただいた方はご存知の通りかと思いますが、企画を進める中で更に以下のように要素を加えることでゲーム性を整えていきました。
- 文字を忘れるたびに忘れていない文字と置き換えることができる
- 忘れた文字は魔物と会話する時に魔物語として読める
第5段階の難易度は非常に高く、何か要素を加えたらその要素が原因で他のところが成り立たなくなるといった衝突も起こります。
使えるアイデアに成長するまで諦めずに展開し続けられるかどうかが重要です。
戻る勇気を持つ
どうしても展開できず行き詰まってしまったという時は、思い切って前段階まで戻ることが効果的です。
第4段階で別のアイデアが生まれていれば、そのアイデアを展開することにチャレンジしてみる。
第3段階をやり直して、別のアイデアを生み出す。
第2段階のグルーピング方法を変えてみて、新しい発見がないか探す。
第1段階で十分に要素出しが出来ていなかったと感じるなら思い切って要素集めからやり直す。
1つの視点からアイデアを展開させようとしても、行き詰まった時には大抵うまくいきません。考えたことは決してムダにならないので、切り捨てる勇気を持って別の視点からリスタートしましょう。
まとめ
本でも触れられていますがこの企画法は作業量がとても多く、ハードワークです。
そのため方法を知っても実際に使って新しいアイデアにたどり着ける人はごくわずかだと思います。
それでも天才が生み出すアイデアに匹敵する、超えるものを作りたいのであれば覚悟を持って根気よく実践してみる価値はあるでしょう。
- アイデアとは既にある要素の新しい組み合わせである
- アイデアは5つの段階で作られる
アイデアのつくり方の著者がなぜこの結論に至ったのかということは本の中で解説されていますので、興味のある方はぜひ読んでみて下さい!