僕がソーシャルゲーム(以下ソシャゲ)業界でゲームプログラマーとして働き始めて約4年になります。
この4年間で得た知見と、仕事の中で意識していることをベースに、今回は以下の内容についてお伝えします。
なぜソシャゲの運営は続けられなくなってしまうのか。クリエイターにはどんな対策ができるのか。
前半では「遊んでいるソシャゲがサービス終了してしまうのではないかと心配」「サービス終了してしまった理由を知りたい」という方にとっても参考になる、ソシャゲがサービス終了してしまう理由について。
後半では、クリエイターがサービス終了を防ぐためにできる対策について解説していきます。
目次
Youtube版
今回の内容はYoutubeでも解説しています!
なぜソシャゲはサービス終了してしまうのか?
細かいことを挙げるとキリがないので、ソシャゲがサービス終了する理由を大きく2つのケースに分けて説明します。
「早期終了」と「長期運用の後に終了」です。
早期終了する理由
ここ数年で増えていて、数ヶ月で運用が終了してしまうケースです。
ソシャゲ開発運営のゴールは開発費を回収することです。開発費を回収することを リクープ といいます。
ゴールという表現を使いましたが、終了するわけではありません。当然ながら運営は続きますが、リクープした後というのはひたすら利益を得られるボーナスステージのようなものです。
早期終了してしまうのは、このゴールに到達できる見込みがなくなったからです。
- リリースまでにかけた開発費1億円
- 月々の売上2000万円
- 月々の運営費1000万円
この条件であれば、月々の利益は1000万円です。
10ヶ月でリクープできて、その後はひたすら月々1000万円の利益を得ることが出来るボーナスステージです。
- リリースまでにかけた開発費1億円
- 月々の売上1000万円
- 月々の運営費900万円
ではこの条件ではどうでしょうか?
月々の利益は100万円出ているので、運営を続けても問題ないと感じるかもしれません。
しかし、今後も月々100万円の利益が出たとしてもリクープできるのは約8年後です。
8年もかかってしまうなら、このソシャゲ運用をしている人員を他のもっと利益が出ているタイトルに回したり、次のゲームを開発するのに回した方が良い。という判断になり、このソシャゲはサービス終了してしまうのです。
売上を増やせば継続できるのでは?
売上を増やすこと自体は可能です。
先ほど挙げた例の中の運営費には広告費も含まれますが、テレビCMなど大きく広告費を使えばそれだけ売上も増えます。
大規模なコラボイベントを開催して売上を増やすこともできるでしょう。
しかし、甘めに見て運営費に比例して売上が増えると想定して、先程の例で運営費を1800万円まで増やしても、売上は2000万円です。
月々の利益が200万円ではリクープにまだ4年かかります。
実際はゲームに飽きて遊ぶのを辞めてしまう人も続々と出てくるので、何も対策を打たなければ売上は基本的に右肩下がりになります。
運営費をかけたからといってその分だけ売上が増える保証はないですし、運営を続けること自体が会社にとってリスクになります。
早期終了しないためには、運営を開始した当初からリクープできるラインが近くに見えるほど利益が出ていて、その後も長期的に利益が見込める必要があるわけですね。
長期運用の後に終了する理由
それでは次に長期運用の後に終了してしまうパターンについて見ていきましょう。
上に書いた通り、早期終了しなかったということはリクープが見込めると判断されて運営を継続できていたという事です。
想定していた以上に売上の減少が早く、リクープに到達できる見込みがなくなって終了というパターンもあるでしょう。
リクープ後の継続判断に、売上の金額の大小は全く関係ありません。
売上が200万円でも運営費が100万円なら、利益が出ているわけですからね。
僕の勤めている会社でも、売上は小さいものの運営費がほとんどかからないので続いているタイトルが存在します。
終了するのは赤字になった時
リクープまで到達した後に終了するのは、基本的に利益がマイナス、つまり赤字になった時です。
売上が500万円、運営費が600万円なら、100万円の赤字ですね。
例えば月々で見れば赤字の月もあるけどクリスマスなど季節もののイベントの存在で年間を通せば利益が出ている。
という事もあるので細かい話は置いておきますが、赤字が続く状態なら会社にとって利益にならないので運営が終了するのは当然の判断ですね。
それでは、ここから先はサービス終了を防ぐために出来ることについて解説していきます。
早期終了しないために出来ること
早期終了を防ぐ最大のポイントはリクープのハードルを下げること。つまり開発費を抑えることです。
当然ながら莫大な開発費をかけたとしても大きな利益が出るならそれは問題ないのですが、ここのコントロールや判断は個々のクリエイターには手を出しづらい部分で、会社経営層やプロデューサーの役割になります。
ソシャゲの開発費は増加傾向にあります。ちなみに、開発費の大部分を占めるのは我々クリエイターの人件費です。
1人あたり、ざっくり月100万円前後で計算するケースが多いでしょう。
月100万円というのは一例ですが年間で1200万円なので、そんなに給料貰えないでしょ!と思うかもしれません。
若手もいればベテランもいますから、給料が少ない人から多い人までざっくりならして計算します。
会社は1人雇うのに給料以外にも社会保険料など色々なお金を払っており、クリエイターが現場で働くためのサポート業務をしている人の給料やソフト代、オフィス代などもここに含まれています。
多いように感じるかもしれませんが、現実にはそれくらいの金額が人件費としてかかっています。
5人チームで6ヶ月開発して3000万円、10人に増員して6ヶ月開発して6000万円、合計して1年で9000万円の人件費といったイメージです。
各社が出すソシャゲのクオリティが年々上がっていっているのは皆さんが知る通りです。
クオリティを上げるためには、それだけの人数と時間が必要です。
25人で2年※の開発なら6億円ですが、こういった金額が使われることが珍しくなくなってきました。
※実際には、開発人数は開発が進むごとに増えていきます。
当然ながらそれだけリクープのハードルも上がっているということです。そのため、ここ数年で リリース してから早期終了してしまうソシャゲが増えてしまっているわけですね。
人件費を抑えるパターンとしては以下のようなものがあります。
- 給料を減らす
- 開発人数を減らす
- 開発期間を短くする
給料を減らされるのは最悪ですよね。やる気も出ませんし願い下げです。
開発人数と開発期間は密接に関わってきます。
人数を増やせば短い期間で開発できますし、減れば期間は伸びます。ここは何となくイメージできますよね。
正直このあたりのコントロールは我々クリエイターには難しいことなので、今回は取り扱いません。
最もクリエイターに関係性が強い話題として、リリースが遅れるということについて扱っていきます。
リリースが遅れることによる影響の大きさ
人件費を抑えるパターンとして開発人数を減らすことと開発期間を短くすることを挙げましたが、これは正直必要ないと思っています。
当初のリクープ計画通りの開発人数と開発期間でリリースできるなら、予想が大きく外れない限りはリクープが可能だからです。
しかしリリースが遅れる、つまり開発期間が伸びてしまった場合どうでしょうか?
20人チームで2年でリリースの予定なら当初の開発費の予定は4億8000万円です。
これで半年リリースが遅れてしまった場合、追加で1億2000万円の開発費がかかり、合計で6億円となります。
当初4億8000万円をリクープする計画を立てていたとしたら、6億円を回収することがいかにハードルが高いかは何となく理解できることと思います。
リリースを遅らせないためにできること
企画やゲーム仕様が大きく変更されることでリリースが遅れることはよくあります。
これを防ぐことは中々難しいですが、開発初期で後々問題になりそうな企画の欠点やゲーム仕様の問題があるのなら、早めに改善策を練っておくことは必要でしょう。
こういった問題とは別に、ここ数年で特に問題になっているのは上に書いたようなリリースが遅れることで増える開発費への認識の甘さでしょう。
プロデューサーやディレクターが認識できていても、各クリエイターまでこの考え方が浸透していないのは実際に感じています。
リリースが遅れるというのはゲーム業界における日常です。むしろスケジュール通りにリリースできることの方が珍しいくらいでしょう。
コンシューマゲームにおいては、良いことではないですが開発期間が伸びてしまったとしてもリリースさえできればそのゲームは残り続けます。
ソシャゲにおいては、リクープの見通しが立たないなら早期終了してしまいます。もうそのゲームが遊べることはありません。
僕は開発から携わったゲームが終了してしまうことは経験していませんが、3ヶ月ほど運用に参加したゲームが最近サービス終了しました。
短い期間とはいえ自分が関わったゲームがサービス終了してしまうのはとても悲しいですし、自分が開発するゲームは長く生き残れるように作ろうと意識しています。
リリースが遅れてしまうことで増える開発費に対してまずは問題意識をしっかりと持つことがソシャゲ開発のクリエイターにとって必要だと考えています。そこから起こせる行動はおのずと後から付いてくることでしょう。
運用を長く続けられるように出来ること
運用面では利益率を上げるために売上を増やすか運営費を抑える、もしくはその両方を行うことがポイントです。
売上を増やすのは当然ながら最も難しいところで、プロデューサーやディレクターの腕の見せ所です。ここに関して僕が書けることは今は特にありません。
今回は運営費を抑えるという側面について取り上げます。
運営費を抑える方法
運営費の大部分を占めるのは次の3つです。
- 人件費
- 広告宣伝費
- サーバ維持費
それぞれ見ていきましょう。ここからは専門用語も出てくるので分からないところは読み飛ばして頂いて問題ないです。
人件費
運用フェーズの人件費は先ほど解説した開発フェーズでの人件費と異なる点として、「期間を短くする」は存在しません。
したがって人件費の抑え方は次の2通りしかありません。
- 給料を減らす
- 運用に関わる人数を減らす
こちらも同じく給料を減らされてしまっては困りますから、関わる人数をどれだけ減らせるかがポイントになります。
減らした分だけ売上が落ちてしまっては元も子もないので、仕事の効率を上げて同じ時間で高い成果を出すということがポイントになってきます。
いくつか例を挙げてみます。いずれも時間が必要ですが、それ相応のリターンが長期的に得られるという考え方で実施します。
ルーチンワークの自動化
エクセルやスプレッドシートにデータを入力する作業があるなら、関数やマクロを使って自動化できるところは自動化するといった事が挙げられます。
マニュアル作成に時間をかける
分かりやすいマニュアルを作成するのは大変なので時間をかけられないことも多いですが、マニュアルを最初にしっかりと作成しておくことでメリットがいろいろあります。
給料の高いベテランしかできなかった作業をマニュアルを整備することで若手でも作業を引き継げるようにすれば人件費は減ります。
デザイナーであればデザインマニュアルを整備することで外注化もしやすくなります。
アプリ更新が不要な作りにする
運用でエンジニアの手が必要になってしまう最も大きなところはアプリの更新作業です。
更新データをゲーム上で配信する仕組みを開発フェーズのうちに作っておくことで運用が楽になります。
プログラムの設計をきれいにする
エンジニアにとって永遠のテーマである設計ですが、最初から機能の追加がしやすかったりバグが起きにくい設計になっていれば運用フェーズでのエンジニア作業を減らすことができます。
オープンソースを利用するなど、世の中で広く使われているものがあるなら積極的に活用します。
広告宣伝費
広告宣伝費は抑えてしまうとその分だけ売上も落ちてしまいますから、必要な金額はしっかりとかけます。
メインターゲット層に合わせる、例えば専業主婦がターゲットなら平日の昼間にテレビCMを流すといったように効率よく宣伝を行ったり、テレビCMより安価なWeb広告を中心に展開して金額を抑えるといった具合ですね。
ここはクリエイターにとってはあまり関わらないポイントなのでこのくらいに留めておきます。
サーバ維持費
サーバ維持費のところはインフラエンジニアやサーバサイドエンジニアが大きく関わります。
コストの低いクラウドプラットフォームを使う
AWSやGCPが有名ですが、プロジェクトの特徴に合わせてサーバ維持費を抑えられるようにインフラ構成を設計します。
サーバの処理負荷を下げる
処理の負荷が少なければサーバの台数を抑えることが出来ます。
サーバプログラムの書き方を工夫したりデータベース設計を工夫したりといったことが挙げられます。
その他にも、プログラム言語のバージョンを上げるだけで処理負荷が下がるといったこともよくあります。
まとめ
結局のところお金にならなくなったらソシャゲは終了するというシンプルな話でした。
お金の側面は、普段あまり意識することはないかもしれませんし自分でどうにかできる事でないと感じることもあるかもしれません。
しかし、個々のクリエイターにできる事は必ずあります。
きちんと売上が確保できるゲーム内容という前提こそありますが、各自がコスト意識をもって開発運用にあたればソシャゲは長く運用を続けることができるはずです。
そして僕は何より、この利益を追求するビジネス性こそソシャゲ開発の面白さだと思っているのでこの業界でゲーム開発を続けています。
サービスが終了したら二度と遊べないという悲しさこそありますが、この記事にそれなりに興味を持って読めた人ならソシャゲ業界、楽しめるかもしれませんよ(笑)